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プレイス・ブランディング事例
未活用のままの”都市の屋上”をルーフトップ・ファームへ

2021-01-12

Summary

都市の多くの屋上は未活用です。
循環型社会を追求するための「サーキュラー・シティ」を標榜するアムステルダムでさえも、屋上活用率は2.5%程度と言われています。都市面積の15-35%を屋上が占める中でここに大きなギャップがあります。都市化が進めば、地上面積が圧迫される事は避けられず、人類は”水平”ではなく”垂直”の可能性を探る必要が出てきます。既に世界ではその可能性を追求すべく「ルーフトップ(屋上)」の改革が進みつつあります。

屋上農園自体は以前からある発想ですが、昨今のようにサステナビリティの重要性が一段と高まる中で、改めて加速しつつあるプレイス・ブランディングの動きです。ルーフトップは、都市におけるサステナブル農業の実験場であり、新しいパブリックスペースにもなり得る場です。本記事では、屋上に自然要素を還元させ、都市のサステナビリティを取り戻そうとするプレイス・ブランディング事例をご紹介します。

目次
① Nature Urbaine – フランスに生まれた欧州最大のルーフトップ・ファームプロジェクト
② Dakdokters – 屋上緑化するアムステルダム発のサステナブルカンパニー
③ Peas&Love – 生活者をアーバン・ファーマーに変える屋上農園スタートアップ
④ Brooklyn Grange – NY流の大型・屋上農園

① Nature Urbaine – フランスに生まれた欧州最大のルーフトップ・ファームプロジェクト

2020年7月、パリにサッカー場2個分(14,000平米)もの巨大な敷地に誕生したのが欧州最大のアーバン・ファーミングプロジェクトのNature Urbaine。ヨーロッパの中でも最も人口密度が高く、緑地が少ないパリからこのプロジェクトが生まれたことの意義を改めて感じさせるスケールです。大規模イベントや展示会などが開催される「ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場」の屋上に展開されているこのプロジェクトですが、実は10年間に渡り、見本市会場をリノベーションする改革計画の一環なのです。見本市会場の所有者であるViparisは、パリ内の9拠点において大規模なイベント会場を運営する団体。同団体がよりサステナブルなイベント開催を行うため、世界に向けて発表したロードマップ「Better Events Viparis 2030」の構想に基づいてリノベーション改革が進められています。このNature Urbaineはその中でも、世界に水平展開できる屋上農園のモデルを生み出す事を目標にしています。

Nature Urbaineの実装と運営を担うのがAgripolisとCultures en Villeです。
Agripolisは、土壌を使用する事なく、空気や霧を用いた栽培プロセスである「エアロポニック技術」を応用したアーバン・ファームの設置・運用ノウハウを持つイノベーションカンパニー。Cultures en Villeは、アーバン・ファーミングや屋上農園の設計を手掛ける会社です。

Agripolisのファウンダーであるパスカル・ハーディ氏は、現状のフードサプライチェーンが抱える問題点をこのように語っています。

「私たちが食する果物や野菜は、約17種類もの農薬が使われている事、生産プロセスでは温室効果ガスが大量に排出されている事、2千キロも冷蔵され続けて届けられている事、その距離を耐えられる基準で選ばれているためにクオリティが低い事、購入金額の8割もが生産者ではなく卸業者や流通会社にいっている事。こうしたこと全てに納得がいきません。」こうした問題意識を元に、エアロポニック技術を用いた屋上農園にこそ大きな可能性があると考えています。

屋上という未活用の場を活用できるだけでなく、実装コストも一つのメリットです。
エアロポニックを用いた屋上農園に必要な機材は、軽量で、平坦であればどんな場所でも設置が可能。初期費用は1平方メートルあたり100-150ユーロであると共にランニングコストも限定的です。

現在Nature Urbaineでは、既に1日約3,000個のレタスや150パックの苺が収穫できる程になっているといい、ピーク時には1日あたり1トンの果物・野菜・ハーブを収穫できる予定です。当初、Nature Urbaineは地元レストランなどに収穫物を卸すモデルを考えていたところにコロナが直撃。急遽、生活者に直接販売するモデルへと転換しました。コロナ禍の影響で、生活者がローカルなものを求める傾向が強まり、農家が直接生活者に野菜・果物を販売するモデルも普及したタイミングだったため、現在は順調に推移。2021年中には損益分岐点に達する見通しとの事です。

もちろんこうした屋上農園は、国民全員を供給するには不十分です。
育てられる野菜にも制約があり、ジャガイモや人参といった根菜類は根がしっかりと張るため、現在の技術では不向き。そのため栽培時期も主に夏が中心になるのが現状です。しかし、食材供給以外にも、住民同士の繋がりが生まれる事や、自然環境に近い生活環境がもたらす幸福感といった、無形価値もしっかりと評価すべきではないでしょうか。

② Dakdokters – 屋上緑化を加速させる、アムステルダム発のサステナブルカンパニ

Dakdoktersは直訳すると「屋上ドクター」という名の通り、都市の屋上を緑化し、ルーフトップ・ファーム、ガーデンや公園、時に貯水機能を持たせるなど、様々な形へと転換させていくサステナブルカンパニーです。
欧州最大のコワーキングスペースであるB. Amsterdam(ビー・アムステルダム)の屋上も、ルーフトップガーデンを併設する「ルーフトップ・パーク(1750平米)」に作り上げた実績もあります(現在はルーフトップ・レストランもあります)。ちなみにB. Amsterdamは現在、サーキュラー・エコノミーに貢献するためにスマートシティ・ゾーン構想を描き、農場建設やスマートシティ関連のスタートアップを集積させるためのスマートシティ・ハブを作るなどの計画を進めていますので、今後も注目です。

③ Peas&Love – 生活者をアーバン・ファーマーに変える屋上農園スタートアップ

ベルギー発のPeas&Loveは、ベルギー最大の料理学校の共同創業者であるJean-Patrick Scheepersが2017年に立ち上げたルーフトップ・ファーミングのスタートアップ。同社は、未使用の屋上を借り上げ、ルーフトップ・ファームに転換。そこで育てられた野菜をユーザーが月額会費(40ドル)を払えば収穫できるサービスを展開。Peas&Loveが農作業を代行し、収穫時期になればアプリで通知が届く仕組みです。4m四方のガーデンは2分割され、半分は会員専属の農地となり、残り半分から収穫された野菜は全会員でシェア。都市における地域のコミュニティ形成が核にあるサービスのため、こうした会員間との関係性を生み出すなされています。

④ Brooklyn Grange – N Y流の大型・屋上農園

Brooklyn Grange(ブルックリン・グレンジ)は、ニューヨーク内で3つの屋上農園を運営。合計1.2万平方メートルの土地から、年間4.5万キロ分のオーガニック野菜を収穫しています。夏から秋にかけてはブルックリンやクイーンズ地区の計4箇所のファーマーズマーケットで野菜を販売。食や栽培方法に関するワークショップ、シェフを招いたディナーパーティの開催、ヨガレッスンなどコミュニティ作りに向けた活動に加え、イベント場所の運営、ランドスケープデザイン・サービスの提供など幅広く展開。チームリトリートやコーポレートイベントをこうした場でやるのも面白いかもしれませんね。こうした活動を行う上で意識している事が「トリプルボトムライン」、つまり意思決定をする上で経済性だけでなく、社会性と環境性も考慮した事業判断を行うことを心がけているとの事。オンラインツアーも行っており、メニューの中には3人のファウンダーたちとのQ&Aセッションが含まれるものがありますので、ご興味がある方は覗いてみてください。

今後、私たちはどのようにして自然と共存していくべきなのか。
どのようにして自然を都市の中に取り戻していくべきなのか。
これはATTIQUEとしても取り組んでいきたいテーマですので、今後も皆様と世界の動向を共有しながら解決に向けた動きができればと思っています!

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ATTIQUE エリアデザイン・カンパニー

私たちは「選ばれる場」をつくる、プレイス・ブランディング専門集団です。
大手不動産ディベロッパーのプレイス・ブランディング戦略も多数手掛けていますが、規模の大小を問わず、プレイス・ブランディングの知見を活かしたご提案をします。いつでも、お気軽にご相談ください!