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『London Tech Week』 ― 海外からの投資・拠点設立を加速させる、官民一体のカンファレンス

2018-05-10

Founding Story

2014年、ロンドンのTech企業の成長支援を目的に、『London Tech Week』はスタート。シリコンバレーを倣ったTech City構想を掲げる都市戦略もあって、2019年までに10万人の集客規模を誇る巨大イベントにするという野心的な目標を持つ。1つの巨大カンファレンスで完結させず、街中で展示会やセミナー等を催すのが特徴。

Fact

参加者数48,000人 + リーチ1.2億人

開催を重ねるたびに、参加者数は伸びており、2017年は5日間で93か国、48,000人超が集まった。また、SNSを通じた情報拡散によって、世界の1.2億人に対して、ロンドンがデジタル・イノベーションにとって最良の都市であることを発信している。

68億円 + 23件の投資機会のリード獲得

企画・運営機関によれば、本イベントの経済効果は、2016年は約31億円 (£21,218,425)、2017年は約68億円(£45,915,245)と試算されている。また、参加企業の海外投資チームから、少なくとも23のリードを獲得し、1年で24の求人案件を、3年で51の求人案件をつくったと報告されており、当初の目的通り、投資・雇用促進につながっている。

Strategy

官と民が垣根なく集結

本イベントは、ロンドン市のプロモーション機関(投資促進、ブランディング)の『London & Partners』 や、Tech人材のための支援団体『Tech London Advocates』が主導。そして、ロンドン市や国際貿易省といった行政や、期待のインキュベーションセンター『Here East』、ならびにマイクロソフト、SAP、オラクルといったグローバルブランドらがスポンサーとして参画している。打倒・シリコンバレーとすることで、多様な企業・団体が一枚岩になる機会をつくっている。

地元のTech企業をイベントコンテンツのパートナーに

300以上のイベントは、特定の大規模カンファレンス会場ではなく、街中の会場で分散して開催。注目したいのは、市内の多様なTech企業がオフィスを開放し、独自プログラムを展開している点。地元企業が、「London Tech Week」という看板を活用し、リード獲得や情報収集、採用活動を図っている。もちろんイベント側にとっては、貴重なコンテンツが増え、Win-Winの関係にある。例えば、Google UKは、本社ビルを開放し、「Digital Skills Academy」と題した、5日間に及ぶデジタル技術向上ワークショップを提供している。

Courtesy of London Tech Week

Photo: Courtesy of London Tech Week

Related Trend

ロンドンのテックスタートアップへの投資額は過去最高かつ欧州No.1

ロンドンのTechスタートアップへの2017年の投資は、パリ、ベルリンの企業への投資を上回り、欧州No.1となった。また、2017年にロンドンのテクノロジー関連企業に流れたベンチャーキャピタル資金は33億ドル。内訳としては、FinTech関連への投資が最も多く過去最高を記録し、AI関連への投資も前年の倍となっている。

Tech界の巨人がロンドンに拠点集中

GoogleやAmazon、Apple、日立といったTech界のグローバルブランドが、ロンドンに欧州地域の本社機能を移管している(Appleは2021年予定)。また、それに伴い、Tech人材の大規模採用も見込まれており、Googleは2020年までにロンドンの新本社で最大3,000の雇用を創出するとしている。

area vision MEMO

シリコンバレーや中国にデジタルの覇権があるなかで、ロンドンはTech都市構想を具現化したいと考え、巨大イベントブランドを作り上げるソフト戦略に着手した。ただ、一般的には歴史の浅いビジネスカンファレンスは、主催者や登壇者以上の影響力を有するのは難しい。さらに、ロンドンの場合、音頭を取れるようなロンドン発のTech大企業がそもそも少ない現状があった。
そんな中、ロンドンはグローバルブランド、スタートアップ、行政が入り混じる官民一体のイベントを見事に結実させた。これには、欧州主要都市では初めてのイスラム教徒の市長となったサディク・カーン氏の存在が大きい。氏は、Tech企業に対してロンドンのスマートシティ化への参画を呼びかけるだけでなく、行政側が率先する形で、クリーンエネルギー関係のスタートアップ・中小企業への1.6百万ポンドの投資を発表し、同市としては初めてChief Digital Officerを2017年に着任させている。
市長レベルでスタートアップの価値や官民で取り組む意義を理解しているからこそ、他都市には見受けられないようなイベントが実現できたのだ。